素描、パピエ・コレなど
ル・コルビュジエが常に携行していたのは手帳(小さなスケッチブック)でした。新しい建築のアイデアや、旅先や日常のなかで目にして興味をひいたもののスケッチや、著書のための走り書きや、旅で買ったものの金額や、その他さまざまなことが記されています。彼は記憶に残すためには「手で描く」ことが必要だと語っていました。それだけに、手帳はもっとも重要な記録アイテムでした。
さらに膨大な数の、日常的なプライベートな内容のスケッチや水彩画、油彩のための下絵などが遺されています。ル・コルビュジエは油彩による風景画は制作しませんでしたが、旅先では当たり前のことながら、風景をよく描いています。風景を作ることは建築で行うため、絵画では風景画は描かなかったのか、と思わされます。
彼は気に入った絵柄や、気になるモチーフなどを何度も繰り返して描きます。中には長年にわたって、同じ絵柄が登場することもあり、彼が何に関心をもっていたか推し量ることができます。
日常的なスケッチは、カチッとした構図をつくりあげ、時間をかけてしっかりと描き上げて仕上げられる油彩作品とは違い、手早く描いたものならではの、軽快で、かつ筆致の勢いが感じられる作品となっています。
また、色紙や新聞などを貼り付ける技法、パピエ・コレによる作品も1950年代以降多く制作されました。輪郭線と色面とは必ずしも合致せず、そのことで色と線との自律性が感じられ、生き生きとした印象を与えています。
さらに、スグラフィット(※)の技法を用いた作品も手掛けています。
(※)スグラフィット
一般的に、建物の外壁に色の異なる漆喰を重ね塗りし、表面の漆喰層を掻き落とすことで下の層の漆喰の色を見せる技法を指しますが、陶器の表面に施す同様の技法のことも言います。また、紙やカンヴァスなどに塗った色面をパレットナイフなどでを削り落とすことで下地、あるいは重ね塗りした下の層の色を見せることも指し、ル・コルビュジエは透明のロードイド板(シート状の合成樹脂)に黒い塗料を塗り、その面をニードルで引っ掻いて絵を描く手法を行っています。
素描、水彩、パピエ・コレ 他174点