油彩、エマイユ、壁画

ル・コルビュジエは建築家でありながら、生涯多くの絵画作品を手掛けた画家でもありました。故郷ではみずみずしいスイスの風景を描いていました。パリに出て画家アメデ・オザンファンと出会い、1920年代前半は純粋な幾何学的形態を描く「ピュリスム」の活動を行い、1920年代末からはシュルレアリスムの影響を受けた作品や、「詩的な感情を喚起する静物」と呼んだ骨や石のようなオブジェを描く時期を経て、1930年代以降は女性を主たるテーマとして作品を制作します。第二次世界大戦後には、美術の潮流とは離れて、「牡牛」「イコン」といったテーマや、自作のキャラクターのような象徴的なモチーフを描くようになりました。

1920年代の禁欲的な卓上の静物画から、豊満な女性のヌードを描くにつれ、単なる幾何学的抽象ではなく、ル・コルビュジエ独特の肥痩のある線で描かれたフォルムへの変化は、彼の建築でも見られる形態表現の変化に対応しています。また、穏やかな彩度の低い色で構成された1920年代の絵画作品と《ラ・ロッシュ+ジャンヌレ邸》や《ワイセンホーフ・ジードルングの住宅》などで見られるポリクロミー、そして、強い色彩を効果的に用いた戦後の絵画作品と《マルセイユのユニテ・ダビタシオン》やチャンディガールの建築は、見事に対応しています。このように、彼の絵画と建築とは密接な関係があり、制約が多い建築と違って、自由に表現ができる絵画で行ったさまざまな試みが、建築へ反映されていたといえます。彼にとって絵画は一種の実験室でした。

彼は油彩やグアッシュなどの他に、エマイユ(エナメル画)という技法にも挑戦しています。エマイユはガラス質で屋外にも適することから、この技法による大きな扉絵も制作しています。また、紙やカンヴァスだけでなく、直接壁に描いたり、板に描いたものを壁に取り付けるといった手法で、壁画も制作しています。

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