世界文化遺産
国立西洋美術館
Musee National des Beaux-Arts de l'Occident

日本に残されたル・コルビュジエ唯一の作品である。
戦争中、フランスに残されていた松方幸次郎氏の「松方コレクション」が、フランスから日本に返還されるにあたり、条件として提示されたのが、コレクションを収蔵展示するための美術館の建設であった。
ルーヴル美術館のジョルジュ・サール館長の助言を得て、ル・コルビュジエが設計者に決まり、ル・コルビュジエが基本設計を行い、弟子である前川國男、坂倉準三、吉阪隆正らが実施設計、監理を担当した。ル・コルビュジエは敷地を見るために一度だけ来日を果たしている(1955年11月)。
ル・コルビュジエは美術館建築に強い思いを抱いており、1920年代からさまざまな美術館計画案を提示してきたが、実現したのはチャンディガールとアーメダバード、そして上野の3館だけであった。いずれも、建物の中心から巻貝の殻のようにらせん状に広がっていく回廊状の展示室を置き、収蔵品が増えれば外側に増築できる「無限成長美術館」を基本としている。
ル・コルビュジエは、松方コレクションのための美術館だけでなく、実験劇場や企画展示施設、図書館、講堂、観客休憩所などからなる「芸術文化センター」的なものを構想していたが、収蔵作品を展示するための美術館以外は実現にはいたらなかった。
およそ40m四方の美術館は、足元をピロティによって支えらえている。直径60センチの柱は力強く、型枠に使用したヒメコマツの木目が本物の樹木を思わせるように美しい。さらに小石をぎっしり詰め込んだ外壁はあたかも菓子の「雷おこし」のような表面であり、外壁のコンクリートパネル、柱には、コンクリートの表情の多様さを見ることができる。
半屋外空間のピロティから中に入り、中央の「19世紀ホール」が展示空間のスタートである。ここにはル・コルビュジエ本人による写真壁画を予定していたが、時間切れで実現できなかった。ここでは北側を向いた吹き抜けの高いトップライトからの柔らかな自然光のもとで彫刻などを鑑賞した後、ゆるやかにスロープを進み、ホールを見下ろしながら、低い天井を抜けて2階の展示室へと入っていく。
2階の展示室は、角を曲がるごとに狭い空間や高い空間が現れ、ところどころではホールを見下ろすバルコニーがあり、また、外を眺められるベンチのコーナーがあるなど、変化に富んだ空間である。寸法はモデュロールで決められ、低い部分は226cm、高い部分はほぼその2倍の高さである。
低い天井の上の、ガラスに囲まれた部屋状の部分は、トップライトからの自然光を効率よく展示室にもたらすための「照明ギャラリー」だが、自然光の紫外線は作品に悪影響を及ぼすことから、現在は人工照明を中に入れている。
