世界文化遺産

ラ・トゥーレットの修道院

Couvent Sainte-Marie de la Tourette

所在国:フランス
竣工年:

《ロンシャンの礼拝堂》にも関わったクチュリエ神父からの依頼によって、ル・コルビュジエは再びカトリックの施設に取り組むこととなった。

修道院という施設は、修道僧が集団生活をする住居という生活の場と、学び、静かに祈り思索する宗教的な場という、二つの役割をもつ。13世紀に確立されたドミニコ会の決まりに従ったプログラムが求められ、100の僧房と図書室、研究室、会議室、食堂、教会などからなり、北側に礼拝堂が位置し、その南側にそれ以外の施設が、中庭を囲んで「コ」の字型に配され、全ては回廊でつながっている。《ラ・トゥーレット》は《ロンシャン(礼拝堂)》と《ユニテ・ダビタシオン(集合住宅)》での経験を生かし、それらを統括して作り上げた作品である。

ル・コルビュジエは、クチュリエ神父に勧められて見に行った《ル・トロネの修道院(南フランス)》だけでなく、《エマの修道院(イタリア)》、アトス山(ギリシャ)の修道院、ガルダイア(アルジェリア)のモスクなど、かつて訪れたことがあった宗教建築を参照にしたと思われる。

ピロティで持ち上げられた5階建てだが、敷地が急な斜面のため、もっとも高い東側にエントランスを置き、ここが3階にあたる。このフロアをはさんで上下に展開する構成となっている。ピロティは全体のボリュームに対して、個々の脚は細く、数が多く、斜めのアーチ状の形をしているものもあり、中庭に入ると、樹木に囲まれたように感じられ、森を見上げるところに修道院が建っているような印象を与える。礼拝堂棟のみピロティをもたず、コンクリートのマッシブな塊が、緑の斜面にどっしりと腰を据えていて、ピロティ部分との違いを際立たせている。

《ラ・トゥーレットの修道院》では随所に対比の面白さを見ることができる。

コンクリートは表面には石をはめ込んで、ざらざらな仕上げになっていて、ガラス面との差が際立っている。さらに、ところどころアクセントで用いられた原色が目を引きつける。

ここではさまざまな形の窓があるが、市松模様に開けられた正方形の窓、水平方向に伸びる廊下部分の細長いスリット、幅の違う縦の細い桟が入った幾何学的な窓の割り付け(波動的なガラス面)などが、垂直・水平の対比を強調している。これらはモデュロールの寸法を使った窓割りが生んだリズムであり、同様に礼拝堂内部では床、壁、天井において、コンクリートの目地割りが異なるリズムを生みだしている。

礼拝堂は大きな四角いコンクリートの箱だが、祭壇には朝、昼、夕方と異なる方角からの光が差しこみ、さらに「光の大砲」「光の機関銃」と呼ぶトップライトからの光が壁面に塗られた色彩と相まって静謐な祈りの空間を生み出している。

一方、修道士たちの部屋は実に簡素である。必要最低限のものしか持たず、祈りと学問に生活を捧げる、彼らの静かな暮らしのためにル・コルビュジエが用意したのは、モデュロールの寸法によってつくった質素ながら落ち着く空間であった。