世界文化遺産
クルチェット邸
Maison du Doctueur Curutchet

4層からなる住宅および診療所は、医師のペドロ・クルチェットとその家族のために建てられた。医師クルチェット博士が、診療所兼住宅の設計を依頼したが、ル・コルビュジエとの直接のやり取りはパリにいた博士の姉が行い、地元の建築家アマンシオ・ウィリアムスが現場を担当した。結局、ル・コルビュジエは一度も現地を訪れなかった。
緑に覆われた公園と19世紀に計画されたラ・プラタの大通りに面し、この通りによって正面が60度に切り取られ、三方を新古典主義様式の既存の建物で囲われた敷地に建っている。
サヴォア邸の20年後に計画された《クルチェット邸》は「新しい建築の5つの要点」および、スロープといったル・コルビュジエ特有の建築的要素からなっている。
1階がエントランス、車庫、中庭 / スロープ折り返しの踊り場(中2階)が居住部のエントランス / スロープを上がった2階が診療所 / 3階と4階が住まいという構成である。
ピロティは通りに面した診療所を持上げ、車庫の空間を作っている。正面扉を入ると、中庭に育つ1本の樹木とそれに対応するかのような等間隔ではなく林立する柱の空間と彫刻が置かれた中庭が現れる。そこは外部の明るさとは対照的な光と影の演出であり、その空間をスロープが横切っている。スロープを登ると、光と影、内部と外部が生み出す対比的な空間に、ル・コルビュジエの建築的プロムナードの詩的な力を感じることができる。スロープは診療所と住宅双方への巧みな個別のアクセスとなっていて、公私の空間をうまく分離させ、上階における住宅のプライバシーは守られている。住宅部分には2.26mとその2倍の天井高をもつリビングの空間、そして緑あふれる景色を切り取るキャノピーへと空間が開ける。食堂、寝室、下階の診療所はすべて、太陽の向きと外の景色を考慮しながら方向が決定され、最大限にランドスケープを享受できる建物となっている。
太陽の動きを考慮し、北向きの強い陽射し(南半球のため、北向きは日当たりが良い)を調整するために、建物前面には鉄筋コンクリート製の日除け(ブリーズソレイユ)が取り付けられ、正面部分の奥行を巧みに操作し、屋上庭園には半分に背の高いパラソル屋根がついている。
現在は地元の建築家協会が管理している 映画『ル・コルビュジエの家』(2012年日本公開)は、この住宅が舞台となって物語が展開している。
