世界文化遺産

ロンシャンの礼拝堂

Chapelle Notre Dame du Haut, Ronchamp

所在国:フランス
竣工年:

「建築の魂は、ヴォリューム、リズム、光と影に在ります。昨今の技術革新は、私を建築全般についての深い考察へと導きました。そして今、精神性を宿す建築に大きく惹かれています」とル・コルビュジエは1945年に語っている。彼はカトリック信者ではなかったものの、このときすでに教会建築を引き受ける下地がすでにできていたといえよう。

ロンシャンは古くから巡礼地として知られ、大巡礼の際には数千人が丘を登って、この地を訪れる。それが1944年の空爆で破壊され、村では再建を望む声が上がっていた。この再建のために依頼されたル・コルビュジエは、「偉大な建築家が必要であり、あなたは調和、人間の精神、幸福を常に考えている」とのクチュリエ神父からの後押しもあり、この教会建築に取り組むことを決意した。

すべてが曲面からできている、カニの甲羅のような、あるいは、帽子をかぶったような不思議な形をしたこの教会は、その小さい白い姿を丘の頂きに現し、人びとはそれを目指して歩いていく。この礼拝堂を印象づける、南東方向に向かって突き出して尖った屋根の形態は、ル・コルビュジエの後期絵画によく登場する、「角」や「翼」のモチーフを連想させる。そして、大きな塔と屋根の形を側面から見ると、その輪郭は、聖母マリアに祈りを捧げるこの礼拝堂にふさわしく、彼が描いていた「子を抱く母親(=聖母子像)」のスケッチを思い出させる。彼は「沈黙、内面的な祈りの場」をつくったと語っているが、光と色彩に満ちた空間には、「えもいわれぬ」美しさに満ちている。

鉄筋コンクリート造ではあるが、壁には破壊された折に残された旧礼拝堂の煉瓦や石材が用いられている。

最初に目に入る南面は大きく湾曲し、壁には多くの穴が開けられ、この開口から色ガラスを通した光がランダムに拡散する。また、3つの塔内部の小祭壇には、トップライトからの官能的なまでの光が降り注いでくる。光と影が荘厳で神聖な空間を作り出している。

祭壇上部に安置されている戦災をまぬがれた聖母子像は、年に一度の大祭の際にはぐるりと回転して、東側の屋外祭壇を方を向く仕掛けとなっている。

屋内には祭壇、小祭壇、告解室があり、床の石の割り付けはモデュロールによっている 椅子はル・コルビュジエと彫刻を共同制作しているジョセフ・サヴィナによるもので、祭壇のデザインはル・コルビュジエ本人による。

おおきく膨らみ、垂れ下がった重そうな屋根は、じつは飛行機の翼と同様、中が空洞で、軽い作りとなっている。