「二つの間に」展 概要
このたびギャルリー・タイセイでは、ル・コルビュジエの晩年の版画集『二つの間に』をご紹介いたします。
彼が多くの絵画作品を残していることは知られていますが、1950年代以降はとくに版画制作に多くの時間をかけて取り組んでいます。
彼の数ある版画集の中では『直角の詩』(1955年)が最もよく知られていますが、それ以外の作品はあまり取り上げられる機会がありません。そんな中、今回ご紹介する『二つの間に』は、彼の晩年の世界観を知るうえで非常に重要な作品といえます。
本作はル・コルビュジエが70歳を迎える1957年1月から死の前年(1964年)にかけて制作され、発表されたもので、サブタイトルに「つらなっていく話題」とあるように、詩と挿絵によって、彼の独り言や、そこから生まれる連想、昔の思い出や神秘的なものへの興味といった、彼の心の内が吐露されています。とりとめもない言葉の中に、本音をのぞかせているあたりには、思いがけない発見もあります。
彼の絵を知るものなら誰しもが見たことがあるお馴染みのモチーフが、彼の言葉とともに置かれることで、より深い意味に気づかされます。連綿とつらなる連想の中で、2本の縞模様のある石と牡牛のかたち(三日月のような2本の角)は、とくに重要なモチーフとして繰り返し登場していますが、これらはタイトルにもある、「二つ」の世界を象徴しています。ル・コルビュジエは『直角の詩』において「+(直角、交わる直線)」の重要性を強調していましたが、『二つの間に』では「=(平行線)」を望み、「二つのものがあることは大切だ」と語り、二つの間に生じる交信を大切にしたいという彼の生き方が示唆されています。
年齢を経ることで、ル・コルビュジエはあらゆるものの存在とそれらが生みだす対話をそのまま見守ろうという境地に達したと解釈することができるのではないでしょうか。
今回は、ル・コルビュジエの詩の朗読にのせて、版画を静止画と動画でご覧いただきます。さらに、そこにル・コルビュジエの元で働き、のちに現代音楽家となったクセナキス作曲によるピアノ曲「エヴリアリ」を合わせます。
本作品は、紙の両面に刷られているため、ほかの作品のように壁に掛けて展示することができません。流れるような言葉と挿絵の構成をくずさず紹介するのに相応しい方法は何かと考えた結果、一編の映像作品としてお見せする方法をとることにいたしました。こうすることで、多くのかたがこの作品の魅力を味わい、深く理解していただけるだろうと思っています。
どうぞ、ル・コルビュジエのつぶやきに耳をかたむけてみてください。
公開日:
2020年1月15日
展覧会:
ル・コルビュジエ『二つの間に』展
展覧会概要:
林美佐(大成建設ギャルリー・タイセイ学芸員)
展覧会エッセイ:
加藤道夫(東京大学名誉教授)「二つの間でーテキストとイメージが織りなす揺らぎと生成」
展示内容:
映像による、ル・コルビュジエ『二つの間に』の紹介
撮影:田村尚子、瀬脇武
フランス語の詩の朗読:マニュエル・タルディッツ
日本語訳:加藤道夫(小野塚昭三郎、田中未来による訳をもとに訳出)
音楽:クセナキス作曲「エヴリアリ」(ピアノ演奏:森本ゆり)
編集:岡本彰生
制作:エシェル・アン
時間:約7分
©FLC / ADAGP、Paris & JASPAR, Tokyo, 2020 ○○○○
©TAISEI CORPORATION, Tokyo 2020
©Echelle-1, Tokyo 2020