バーチャル・ギャラリーについて

大成建設ギャルリー・タイセイはバーチャル・ギャラリーをつくり、このなかで当社所蔵作品の公開を軸に、さまざまな角度からル・コルビュジエをご紹介してまいります。

舞台となる施設は、ル・コルビュジエが計画し実現できずに終わった《アーレンバーグ美術館》です。この美術館計画を参考につくりあげたバーチャル・ギャラリーのなかで、展覧会を体験していただきたいと思います。
展示室は大きく2つのコーナーからなり、ル・コルビュジエの業績が概観できる「常設展」と、展示替えをしながら、ル・コルビュジエの作品をさまざまな視点からご紹介する「企画展」に分かれています。

INTRODUCTION(シナリオより)

バーチャル・ギャラリーに姿を与えたのは《アーレンバーグ美術館》。 建築家ル・コルビュジエが計画するも実現しえなかった作品だ。 橋の先、外と内をつなぐ儀式的空間をくぐりぬけると解放された空間が現れる。

ル・コルビュジエが目指したのは「人が幸せになる建築」だった。 自然と調和し、太陽と共に起き、月と寝る生活。

ストックホルムの海に反射した光が、大きな連続窓を通して、天井に水面を映す。 都市にいても自然の気配を感じられる。

開けた2階に対し、1階は最小限の人工光に支えられた、作品と対話する空間だ。

ル・コルビュジエの作品はギリシャ神殿、古典的建築の歴史を内包する。 模倣ではなく編集。そして彼は諸芸術の統合をめざし、その建築は世界中に多大な影響を与えた。

ピカソのキュビスム、デュシャンのレディメイドなど、新しい芸術の潮流が次々と生まれた20世紀に、ル・コルビュジエは独自の美意識で時代の表現を選別し、融合した。

ル・コルビュジエは作風を変えながら、生涯にわたって描き続けた。
純粋な幾何学的形態表現の追求に始まり、動きのある自在な描線、肉感的な立体表現、単純な線で描く象徴的なモチーフへと表現方法を変え、色彩も徐々に強い色へと変化していった。
厳格な幾何学的構図の中に描かれるオブジェは、どこか柔らかで有機的だ。
これこそル・コルビュジエのアイデンティティなのだろう。

芸術家としてのル・コルビュジエは絵画・版画・彫刻・タピスリーなども制作。
特に筆を自由に走らせて表現できる絵画は、建築のための実験場でもあった。

ル・コルビュジエがなしえたこと、それは解放だった。
慣習への懐疑、美への気付き、自我の芽生え。

選択肢を得た人々は新たな価値を見つける。

遮りは外された。
私たちは見上げて問いかける、「幸せとはなにか」と。

Liner note(3DCGテクニカル解説)

プロジェクトはル・コルビュジエが遺した図面の解読から始まった。デザイン工程のスケッチが数十枚、図面が数枚、パースが一枚。もちろんすべて手書きである。プロジェクトの中止が早かったのか、技術的な要素はほぼ含まれていない。躯体は建築士が見ればおおよそ分かるが、具体的に見ていくと成立しているか疑わしい箇所が多い。例えば、二階の床がどう支えられているのか、屋根が薄すぎるなど。
設備関係もトイレの位置以外は全く記載されていなかった。

意匠的にも外観のカラーパネルの色以外は詳細がない。どの箇所がコンクリート、鉄、間仕切りだったか。素材の関係性が分かれば建築の成り立ちは大体分かってくるものだが、それも十分には分からない。そんなところから始まった。

まず、手書き図面をCADでトレースし、それをもとにArchiCADのよるBIM 3Dモデルで形作っていった。直接手書き図面からモデリングをしなかったのは複雑な3D作業に移る前に図面をよく理解しておく必要があったからだ。コルビュジエではよくある話だが、図面に寸法が書かれていない。縮尺やモデュロールを使い寸法を割り出す必要もあった。実際のル・コルビュジエの図面をなぞるだけでもいろいろと考えさせられるものである。各部分の関係性などを考えながら作業をすすめていった。

今回は架空の美術館をテーマにしているので実際の図面とはあえて変えているところもある。トイレ、事務所、寝室などの個室内部はテーマを際立たせるために、省略している。バーチャル(仮想空間)の世界で成立させるために内装の仕切りの位置を少々変更している。ル・コルビュジエの意思を尊重し、できる限りの意匠的な配慮をした上で行っていった。二階のラウンジ空間や吹き抜けは最もデザイン性が高い内部スペースであり、忠実な解釈を目指した。

いずれにしろ、この未完成作品をCGで再現するにはかなりの独自の決断が必要とされる。1/100の手書き図面では曖昧で分からないところが、CGでは可視化されてしまうからだ。ル・コルビュジエがやろうとしていたことを再現したい、しかし単調な設計をしなかったデザイナーの意思は分からないし記録にも残されていない。

同年代の作品など参考となる作品は数多くあったのだが、最も注目したのはスイスにあるル・コルビュジエセンターだ。アーレンバーグ美術館と同じプロトタイプの作品である。

ル・コルビュジエセンターを見てみるとやはり特徴的な屋根が瓜二つである。ただ大きく違うのは完全外部構造であることだ。地面に置かれた「軽い」パネルの物体を大きく「重い」がっしりとした屋根が守るように覆う、それが建築的な表現であることが分かった。屋根は部分的に省かれ吹き抜けになっているところもある。少し解放感を与えるためだろうか。しかしアーレンバーグ美術館の屋根は内部の空間を作っているので表現がかわっていく。がっしりとした屋根が覆う表現を外部に残した上で、内部環境でどのような効果をもたらすのか考える必要があった。建築的プロムナードを考えるとまず二階のラウンジ空間にたどり着く、特徴的な屋根は、その空間を圧迫感と個性を与えるものに代えていく。

アーレンバーグ美術館の基本的構造はコンクリートの土台の上に鉄製の屋根が浮かび、それが柱とテンションバーによって支えられていること。その間に展示の空間がある。大きく分けるとこの三要素でこの建築は成り立っており、これらの三要素の違いをはっきりと表現することが大事だと考えた。では土台と屋根の間に入るものは何なのか。外壁はル・コルビジェセンターのような「軽い」パネル、それにマッチした金属製の構造で二階の床が成り立っているというのが有力である。現にル・コルビジェセンターの二階も「軽い」鉄骨と細い鉄柱で支えられている。

最後に注目すべきはエントランス空間である。ル・コルビュジエセンターでは二階へ上がるための空間として存在する。「重い」コンクリートで覆われた暗い空間を通り抜けることによって二階の更なる光にたどり着く。アーレンバーグ美術館では一階と二階の関係性は内部の吹き抜けによって結びついているため、この空間は外部から入館する際の洗礼の場として存在する。ル・コルビュジエの残した図面ではコンクリートではなく「軽い」無色のパネルになっており表現が異なるが、内部空間としては似たような機能が想定される。

ル・コルビュジエセンターとアーレンバーグ美術館は同じプロトタイプとは言っても周辺の環境がだいぶ違う。陸地に作られたル・コルビュジエセンターは外部と内部の関係性がより強いものだと考えられる。ル・コルビュジエセンターは全面に池(水盤)を作られているとはいえ、ゲストは建物の周りを自由に歩くことができ、窓やテラスなどを通じて外とのコミュニケーションがふんだんにとれる。水に囲まれたアーレンバーグ美術館はより内部的な空間の配慮がされており、外と中を全く違う世界にしようとしていたことがうかがえる。外の景色もコントロールされており、物理的に陸地とは切り離されている。まさに水に浮かぶ宝箱のようなイメージで今回のプロジェクトは進められていった。

アーレンバーグの美術館としての特徴は、光の表現にある。吹抜けより大胆に取り入れた自然光のもと鑑賞する美術空間、水面に反射した光が跳ね返る天井の変化。
それらを表現するため、ArchiCADによる3Dモデルを3ds Maxに取り込み、アニメーション、レンダリング、合成を行った。美術品は新規撮影を行い、合成による質感のブレを最小限に収めた。
CGのみで構成した場合の無機質さ、美術品の実写とのギャップを抑えつつ、映像にストーリー性を加味するために、実写映像をインサートしていった。
バーチャル空間を構成する場合、主観目線によるウォークスルーが採用されることが多いが、本プロジェクトでは俯瞰視点とすることで、建物の意匠への気付き、展示意図のプレゼンテーションを重視した。

遺された図面の解析から始まった本プロジェクトが、現代的な手法のもと、多くの人々に建築士の意思を伝える新たな表現になり得たら光栄である。

横山祥平,西脇和馬(Echelle-1)

3Dモデル

日照変化

Wire Frame